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東京地方裁判所 平成6年(ワ)4398号 判決

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別紙当事者目録のとおり

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求の趣旨

被告らは連帯して新王子製紙株式会社に対し金75億円及びこれに対する平成5年10月19日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

第二請求の原因

本件の請求原因は,別紙訴状の「請求の原因」のとおりである(訴状における原告の主張は,その第二の二中の民法715条の主張を撤回したほかは,他の準備書面においても,特段の変更なくそのまま維持されている)。

第三当裁判所の判断

一  原告の主張は,要するに,合併に際し,旧神崎製紙が負っていた75億円の簿外債務を考慮しないで旧王子製紙と旧神崎製紙との合併比率が定められたため,両社の合併の結果新王子製紙に75億円の損害が発生したとするものである。

なお,原告は,訴状請求の原因第二の二において,旧神崎製紙出身取締役及び旧神崎製紙元取締役が合併期日までに75億円の損失の存在を知らなかったと仮定した場合を前提としつつ,旧神崎製紙出身取締役及び旧神崎製紙元取締役が取締役の監視義務違反に基づいて発生した75億円の填補義務を免除したなど前後矛盾する主張をしたり,このような取締役の責任免除が可能であるかのような主張をしており,その趣旨は必ずしも明確ではないが,その記載及び原告の釈明を含む弁論の全趣旨に照らすと,この点の主張も,合併に当たり旧神崎製紙に生じていた75億円の簿外損失を旧王子製紙に告知しなかったことにより新王子製紙に75億円の損害を与えた旨の主張であると解される。

また,旧王子製紙出身取締役の責任についても,同第二の四に「新王子製紙株式会社の取締役として金75億円の損害賠償請求権を取り立てるべき義務を怠っている」との記載はあるが,同第二の四,五の記載及び原告の釈明を含む弁論の全趣旨に照らすと,旧神崎製紙の75億円の簿外損失の事実を知りまたは知りうるのに,漫然と合併期日を徒過し,右簿外損失の事実が存在しないとの前提に立った合併比率で新株を発行させ,新王子製紙に対し75億円の損害を与えた旨の主張であると解される。

二  仮に,合併比率が不当で,被吸収会社の株主に対しその資産内容等に比して過当な存続会社株式の割当が行われたとした場合,被吸収会社の株主が不当に利得する反面,存続会社の株主が損失を被ることになり,合併無効の原因となることはありうるであろう。しかし,このような不当な合併比率による合併の場合であっても,合併前の各会社の資産及び負債はすべて合併後の会社に引き継がれ,他への資産の流失や新たな債務負担はないのであるから,前述のような株主間の不公平が生じるだけであって,合併後の会社自体には損害が生じることはないことが明らかである。

したがって,本件各請求は原告の独自の見解に基づく損害の発生を主張するものであって,主張自体失当というほかはない。

(裁判長裁判官 金築誠志 裁判官 本間健裕 裁判官伊東顕は転官のため署名押印できない。裁判長裁判官 金築誠志)

〈以下省略〉

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